今回のIAVCEI(国際火山学及び地球内部化学協会)の2017年国際会議 Scientific Assemblyは,米国ポートランドで開催された.参加者数は,1,349人と過去最大であり,そのうち440人が学生であった.2017年8月12−13日にState of the Hazard Map 3のワークショップ, 8月14-18日にIAVCEI2017の国際会議,8月19日にTephraデータベースのワークショップに参加した.
1.State of the Hazard Map 3 (8月12-13日, ポーランド州立大学)
コンビナーは,Jan Lindsay(ニュージーランド オークランド大), John Ewert(USGS), Eliza Calder (スコットランド エジンバラ大),Mary Anne Thompson (オークランド大)の4名であった(Fig. 1).IAVCEIのVolcanic Hazard and Risk(火山ハザードとリスク)委員会が主催.第1回のワークショップは,インドネシアで開催されたCities on Volcanoes 8における「State of the Hazard Map1」であり,第2回目は,チリで開催されたCities on Volcanoes 9における「State of the Hazard Map2」である.私は,第1回目のワークショップには参加したが,第2回目は欠席,今回は2回目の参加であった.今回のワークショップでは,(1) 各国におけるハザードマップに利用されている各種の手法や考え方をレビューし,(2) ハザードマップがどのように作成され,解釈され,利用されているかを検討し,(3) これまでのワークショップで得られた結果から作成されたガイドラインのたたき台について議論し,修正を行う,(4) ガイドラインのとりまとめ,出版方法,宣伝方法について検討を行うことが目的であった.全体で約25名の参加があり,日本からは,田島,宝田の2名が参加した.
まずは,主催者のLan Lindsay氏から,今回のワークショップの目的など全体の概要の説明があった.その後,Eliza Calder氏から,これまでのワークショップの内容の紹介が行われた(Fig. 2).これまでのState of the Hazard Map1, 2に加え,昨年インドネシアでUSGSとCVGEHM, SATREPSが合同で開催した”Workshop on Volcanic Hazard Assessments (2016年8月28日〜9月7日)や,米国ワシントン州バンクーバーで開催されたVOBP3(2016年11月)の成果についても報告があった.120のハザードマップの解析によると,ハザードマップは,主に”Geology based maps”, “Integrated qualitative maps”, ”administrative maps”,Modeling based maps”の4種類に分類することができ,Geology baseのものが80%を占める.他には,地域独自(Community base)のハザードマップや,短期のクライシスマップなどがある.表現されている火山災害の種類は,ラハール,火砕流,降下テフラ,噴石,溶岩流,岩屑なだれ,その他の順になっている.ハザードマップは,噴火の進行や研究の進捗に伴い進化する.特にGIS, DEM, リモートセンシング,数値シミュレーションによる影響が大きい.数値シミュレーションによるモデリングでは,将来のイベントがどの範囲までどのような形で影響を及ぼすか評価が可能である.成果の一部は,Brown et al. (2014) “Global Volcanic Hazards and Risk”の火山ハザードマップの章にまとめられている.現在,90ページ以上の火山ハザードマップのガイドラインの素案が取りまとめられている.また,USGSでは,デジタルアトラスとして,全世界のハザードマップの収集を行っている.
続いて,USGSのJohn Ewert氏は,火山ハザードマップの歴史について講演を行った.最初の火山ハザードマップは,1919年のインドネシアケルート火山について,インドネシア火山調査所が作成した.その後,1962年にカムチャツカと千島の火山のハザードマップが出版されている(Markhinin et al., 1962). USGSの火山ハザードマップは,1967年のレニア火山のハザードマップ(Crandell and Mullineaux, 1967)が最初であり,その後は,ラッセンピーク火山,シャスタ火山等多くのカスケードの火山で作成された.1980年のセントヘレンズ火山噴火では実際に避難に利用された.ただし,ブラストの影響が想定よりも広く,犠牲者が出た.1985年のネバドデルルイス火山のハザードマップは作成されたが,避難には有効に活用されず多くの犠牲者を出した.1991年のフィリピン ピナツボ火山の噴火でも火山ハザードマップが作成され,住民の避難に有効に活用された.その後は,エナジーコーンモデル,LaharZ, Tephra2, Hazmap, VolcalPuff, Ash3Dなど数値シミュレーションによるハザードマップが作成されるようになった.
Mary Ann Thompson氏は,世界のハザードマップのデータについて,詳細なアンケート調査を実施した.その特徴をとりまとめて紹介した.例えば,ニュージーランドのハザードマップの境界線は,ぼやかされており,境界線の位置に不確定性があることを表している.個別の噴火現象毎にゾーンを示しているケースは約31%で,複数の事象を取りまとめてゾーンを示しているケースは46%であった.また,Geologyベースの結果を重ね合わせて示すタイプは14-38%であり,小規模,中規模,大規模噴火など噴火シナリオを示すタイプは31-64%であり,確率論的な分布を示すタイプは17-31%であった. この調査は,現在39のハザードマップについて取りまとめられているが,より多くの実例を必要としており,日本の火山ハザードマップについても貢献を求められた.実際に初日の午後には各国から持ち寄ったハザードマップを使い,グループに分かれて詳細な検討を行った.日本の事例としては富士山北麓のハザードマップの解析を行った.他には,Alistair Langmuir氏による中央アメリカの国々とイギリスが中心となって行っているHazMapプロジェクト内容の紹介があった.2016年12月にエジンバラで,2017年3月にグァテマラでワークショップを開催している.
その後,各国から持ち寄ったハザードマップを順に紹介し,どのようなコンセプトでそれらのハザードマップが作成されたのかを紹介した(Figs. 3, 4).日本からは,富士山,霧島,桜島,御嶽等のハザードマップを持込み,その作成手法や考え方を紹介した.特に日本の場合は,そのゾーンニングが気象庁の警戒レベルと連動しており,ハザードマップにしたがった避難が行われているケースが多いこと,さらに作成主体が地質調査機関ではなく,市町村が協議会ベースで,大学の研究者らが加わって,コンサルが作成するケースが多いことを紹介した.また,内閣府から火山ハザードマップ作成指針が出ていることを伝えた.富士山北麓のハザードマップは英語版が出ており,内容を理解してもらうには最適であった.
また,各国の現状についてのPPTによるプレゼンが行われた.Jan Lindsay氏は,St. Vincent火山の事例を紹介した.Paul Taylor氏は,南西太平洋地域のトンガ火山等について紹介した.Jessia Ball氏は,カリフォルニア州の火山のハザードマップについて紹介した.Matthieu Kervyn氏は,アフリカについて,Graham Leonard氏は,バヌアツの火山のハザードマップを紹介した.Luis Lara氏は,チリの火山のハザードマップの紹介を行った.Mannuela Elissondo氏は,アルゼンチンの火山のハザードマップの内容を紹介した.宝田は,日本の火山のハザードマップの現状について,現在43の火山でハザードマップが発行されており,それらの内,富士山の事例についてその内容や作成方法,ゾーニングの考え方,過去の噴火時例,シミュレーションに基づいた作成手法などを紹介した.また,桜島,霧島,十勝,有珠,浅間,伊豆大島,御嶽山,阿蘇のハザードマップ示し,気象庁の警戒レベルについても解説した.特に御嶽山では,水蒸気噴火では,それに対するハザードマップは出来ていたが前兆現象が小さく,警戒レベル2への変更が行われず,結果として63名の犠牲者がでたことを伝えた.水蒸気噴火のように高頻度であるがほとんど前兆現象のないケースをどうするか今後検討が必要であること,また低頻度であるが一旦発生すると大災害となる岩屑なだれのようなケースにも対応が必要であることを議論した.
ワークショップの後半では,いくつかのトピック毎にグループに分かれて,1〜2時間程度ずつ議論を行い,グループ毎にその検討内容を発表する形式のブレーンストーミング会議を行った.私が参加したグループでは,”Integration of information into hazard map”で,いかに様々な情報を統合化してハザードマップに盛り込むか,その方法について議論した.統合することにより,受け手側にうまく情報が伝わるか,うまく行った事例はあるか,うまく行かなかった事例はあるか,市町村や,警察,消防など関係者がうまく利用出来るようできるかなどが議論された.ハザードマップの境界線の不確実性をどう伝えるか.確率論的なハザードマップ,長期予測型,短期予測型の内容,シミュレーションとして用いたシミュレーション結果をどう示すかを議論した.また,”The inclusion of additional (non-geologic) information on maps”では,ハザードマップにつけ加えるべき内容について議論した.日本のハザードマップの事例なども参照し,避難時の持ち物,緊急連絡先の情報,より詳細な情報へのQRコード,主要ランドマーク(病院,避難所など),人口分布,道路などは重要との意見がでた.また,オンラインでは,リアルタイムに,変化するハザード情報を伝えることができる(例えば,ラハール等による橋の流出に伴う避難経路の変更など).スマホなどを使えば,現在いる位置情報に基づいた避難経路への誘導などが可能.Virtual Realityを使った3Dナビゲーションも可能との意見も出た.ただし,噴火時には現時点では回線が混み合うこともあり,紙ベースの情報提供は必要との意見が出た.各グループの検討結果は,グループ毎に文書にまとめられ,今後のガイドライン作成に反映される予定である.
最後に,将来のハザードマップ,海洋島のハザードマップ,カルデラ形成を伴うケースのハザードマップについて議論した.将来のハザードマップとしては,例えば,インタラクティブマップ,レイヤーの利用,GISデータの提供,3Dマップ,リアルタイムに降灰情報を反映したハザードマップ,オンラインでのビデオ映像や,シミュレーション結果表示など多くのアイデアが出た.海洋島のハザードマップでは,火口が形成される可能性のあるゾーンを示すことや,水蒸気噴火の起こりそうな海岸沿いのゾーンを示すこと,降灰予測をどうするか(大規模なケースでは本土の陸域にも影響がでる),海底火山の崩壊による津波の対応をどうするか,海底火山のカルデラ形成をどうするかなど多くの意見が出た.カルデラ形成と伴うケースの場合は,可能性のある分布域の把握,複合災害(火砕流と火砕サージ,降灰によるラハール,ダムの決壊による下流域への影響など)の検討等が必要との意見がでた.
今のところ,来年度ナポリで開催されるCities on Volcanoes 10までに火山ハザードマップのガイドライン案をとりまとめ,来年中に第1版をIAVCEIとして公開予定である.WSでは,東アジア地域地震火山災害情報図を持参し,8部を配布した.
8月17日に,Commission on Hazards and Riskの会合が約1時間開かれた.そこで,今後の委員会活動の内容や体制について議論が行われた.今後は,Vhub上にこれまでの議論の内容を掲載すること,次回のCOV10迄にガイドラインを取りまとめること,2018年のCOV10,2019年のIUGG(モントリオール,IAVCEI100周年)で,Hazards and Riskセッションを立ち上げること.WOVOやTephra等の関連するCommissionとの連携を図ること,COV10でState of Hazard Map 4を開催することなどが決められた.今後のCommission on Hazards and Risk体制としては,現在のJan Lindsay, Eliza Calder, Adele Bear-Crozier氏から,Heather Wright氏 (USGS), Sylvain Charbonnier氏(南フロリダ大),Elisabeth (Lis) Gallant氏(南フロリダ大),Sébastien Biass氏(ハワイ大学),宝田の5名に交代となった.
地質調査総合センターで取り組んでいる火山地質図の作成,火山データベースの作成は,火山ハザードマップの作成において,大変重要な役割を果たしている.過去の火山噴出物の分布,層厚,到達限界,噴出年代は,ハザードマップのための欠かせない基本情報である.特に,小規模〜大規模な火砕流,火山泥流,溶岩流,降灰の分布限界は丹念に調べて示す必要がある.主要噴火の降灰のisopachマップは可能なケースについては明らかにしておく必要がある.また,将来の噴火口の位置の予測のためには,赤色立体図などを利用して丹念に過去の噴出口の位置を示す必要がある.また,噴火予測のためには過去の噴火の推移が重要となる.いつ噴火が始まりどのような経緯で比較的規模の大きい噴火に至り,その後どのような経緯をたどって収束に向かったかを取りまとめておく必要がある.その意味で第四紀火山データベース,活火山データベース,大規模噴火データベースは常に最新の情報に保っておく必要がある.確率論的な災害予測やシミュレーションによる検討も,より精度の高い噴出物の分布図,層厚,年代データ,推移データに基づいている.噴火の頻度を検討する上では,火山地質図では1色のまとめられているような,より古い時代の個々の噴出物の分布やその噴火年代の検討も必要であると言える.
2.IAVCEI2017 (8月14-18日,オレゴンコンベンションセンター)
IAVCEI2017 Scientific Assemblyは,8月14-18日の5日間オレゴンコンベンションセンターで開催された.セッション数は48(当初は100以上あったセッションを合併した後の数),平行セッションは9つあり,事前によく聴くべき講演をチェックしておく必要があった.ポスターも大変数が多く,合間の時間に一通り見ておいて,コアタイムに集中的に回る必要があった.
8月14日は,オープニングセレモニーでUSGSのJon Major氏,Wendy Bohrson氏らが司会を行った(Fig. 5).また,IAVCEI会長のDon Dingwell氏の挨拶があった(Fig. 6).プレナリートークでは,Anita Grunder氏とRay Wells氏により,北米大陸の北東部における火山活動とテクトニクスについての講演が行われた.
口頭発表では,Ray Cas氏による水中火山噴火,後藤氏による屈斜路カルデラ,小林氏による噴火前兆現象,Gerardo Carrasco氏による年代測定,Graham Leonard氏によるタウポ火山の火山活動,Shane Cronin氏によるTaranaki火山の高精度噴火地質,Sylvain Charbonnier氏によるTitan2DやVolcFlowを用いた確率論的なハザード予測,小園氏による霧島火山噴火の噴火ダイナミクス,Maurizio Battaglia氏によるセントヘレンズ火山の重力測定,Jean-Christphe Komorowski氏によるLa Souriere de Guadeloupe火山の山体崩壊によるブラスト堆積物,Silvia Massaro氏によるプリニー式噴火のマグマ供給システム,Tomso Esposti Ongaro氏によるブルカノ火山における水蒸気噴火のシミュレーション,James Gardner氏による1980年セントヘレンズ火山ブラストの解析,Tim Druitt氏によるサントリーニ火山のカルデラ形成と津波発生モデルの講演を聴いた.
昼休みには,USGSのJohn Pallister氏によるUSGSの1986年から継続しているVDAP(Volcano Disaster Assistance Program)プロジェクトの講演があった.夕方はポスターセッションのコアタイムがあった.
8月15日は,IAVCEIの総会があった.各賞の受賞式では,Fisherメダルに,Jose Ruis Marcias Vazquez氏が選ばれた(Fig. 7).受賞式にはFisher教授の娘さんも来られていた.Wagerメダルには,Yan Lavallee氏とMarie Edmonds氏,Walkerメダルには,Alexa Eaton氏とSebastien Biass氏,Krafftメダルには,Marta Calvache氏とHugo Delgado Granados氏,Thorarinssonメダルには,Bruce Houghton氏が選ばれた(Fig. 8).
口頭発表では,午前は,Benoit Taisne氏のアジアの火山噴火による火山灰の影響評価,Andrew Patra氏の火山灰の影響評価システム,田島氏による熊本2016年地震と阿蘇火山,Federico Lucchi氏によるストロンボリ火山における山体崩壊にともなうブラスト噴火,Anthony Hidenbrand氏によるアゾレスの巨大海底山体崩壊,Maria Benito-Saz氏によるEl Hierro火山の成長過程の講演などを聴いた.
午後は,火山データベースのセッションで,招待講演として,G-EVERの東アジア地域地震火山災害情報図とアジア太平洋地域地震火山ハザード情報システム,火山災害予測支援システムの内容を発表した.そして,Bergrun Oladottir氏によるアイスランドの火山カタログ,Edward Venzke氏によるスミソニアンのVolcanoes of the Worldデータベース,Christina Widwijayanti氏によるWOVOdat,Andrei Kurbatov氏による南極のテフラデータベース,Sue Mahony氏による海底コアによるM>6クラスの噴火のテフラデータベース,Falk Amelung氏によるInSARのモニタリングデータベース,Cheryl Cameron氏によるAVOの包括的データアーカイブシステム(GeoDIVA)の講演を聴いた.
8月16日は,日帰り巡検で,20年ぶりにセントヘレンズ火山を訪れ,Johnston Ridgeからトレールを約1時間半歩き,岩屑なだれ堆積物などを見て回った(Fig. 9).セントヘレンズ方面だけで,バス16台であり,コースはA, B, Cコースに分かれていた.集合時間も7時30分集合のグループから10時集合のグループなどもあった.他にはColombia River Basalt,Hood火山の巡検のグループもあった.USGSのスタッフの説明は大変丁寧で観測の現状や,噴火当時(1980年当時と2004年からの再活動)の状況などを詳しく聞くことが出来た(Fig. 10).なお,2004年〜2006年のセントヘレンズ火山の活動内容については,USGSのProfessional Paper 1750(USGSのサイトからダウンロード可能; 700MB)に詳しくまとめられている.
8月17日は,朝のプレナリーセッションでは,William Chadwick氏による北米太平洋北東部における海嶺付近の海底火山の講演を聴いた.午前のセッションでは,火山地形と堆積学のセッションにおいて,Sylvain Chabonnier氏による高精度標高データを利用した火山重力流のダイナミクスとハザード評価,Anke Zernack氏によるルアペフ火山2007年噴火のラハールの解析,Amelia Winner氏による高濃度火山重力流の実験解析結果,Richard Waitt氏による1980年5月18日ブラストの解析結果,Patrick Willey氏によるLiDARデータを用いた溶岩流の解析結果,Angela Diefenbach氏によるUSGSのセントヘレンズ火山の溶岩ドーム及び氷河の地形変化モニタリングを聴いた.さらに,玄武岩噴火様式のセッションにおいて,Hans Schmincke氏による東トルコの8万年前のIncekaya火山の大規模海底噴火,Sebastein Biass氏によるキラウエア火山の19世紀の黄金軽石の講演を聴いた.
午後のセッションでは,島弧火成活動のセッションで,Peter Lipman氏による南ロッキー山脈のマグマ活動とテクトニクス,カルデラ,岩脈群,島弧からリフトへの変遷を聴いた.また,火山の噴火予測のセッションで,Kyle Anderson氏によるキラウエア火山のベイズモデルを用いた短期的確率論的噴火予測,Phillipe Lesage氏による決定論的な火山噴火予測,John Stix氏によるFast火山とSlow火山,Annemarie Christophersen氏によるベイスネットワークを用いた火山モニタリングと噴火予測,Mark Bebbington氏による国レベルの長期噴火予測,Steve Sparks氏による世界の第四紀火山(LaMEVE)データベースの噴火の数え落とし推定,Kevin Reath氏によるASTER衛星による熱異常データベース(AVTAD)の講演を聴いた.その後はポスターセッションのコアタイムがあり,200件以上のポスター発表があった.
8月18日の最終日の朝は,プレナリーセッションで,National Forest ServiceのPeter Frenzen氏によるセントヘレンズ火山における社会とのつながりに関する講演を聴いた.午前中のセッションでは,ハザードマップのセッションなどで,Roberto Sulpizo氏によるハザードマップ作成の為のフィールドデータの活用,John Ewert氏による火山ハザードマップの歴史,Jan Lindsay氏によるState of the Hazard Mapによるハザードマップの解析結果のまとめ,Charlotte Vye-Brown氏による南南極のAscension火山島のハザード解析,Paolo Papale氏による都市における火山ハザードマップの研究者と行政機関の役割の講演を聴いた.また,火山噴火予測のセッションで,Andrea Bevilacqua氏によるロングバレーカルデラにおけるマルチモデルを用いた確率論的ハザード評価の講演を聴いた.
午後は,火砕流とその堆積物の理解のセッションで,Eric Breard氏による火砕流のモデリングの比較検討,Elodie Macorps氏によるコリマ火山,メラピ火山,カルブコ火山の火砕流の比較検討,Jannie Kripper氏によるシベルチ火山の火砕流のASTER画像解析,Rebecca Williams氏によるイタリアのGreen Tuff火砕流の解析結果,Nicolas Pollock氏によるセントヘレンズ火山の火砕流堆積物に見られる火炎構造,Gulhem Douillet氏による火砕流堆積物に見られるオーバーターン構造の実験による再現,Olivier Roche氏による米国Peach Spring Tuffの取込ブロックの講演を聴くと共に,雲仙火山,北海道駒ヶ岳火山,阿蘇火山における火砕流の堆積構造と流動堆積機構の講演を行った.
最後に閉会式があり,大会実行委員のメンバーから一人ずつ挨拶があった(Fig. 11).次回のCities on Volcanoes 10は9月2日からイタリアナポリで,IUGGはモントリオールで7月19日から開催され,4年後,2021年のIAVCEI Scientific Assemblyは,ニュージーランドのロトルアで開催されることが発表された(Fig. 12).
今回のIAVCEI2017では,1200件以上の口頭発表とポスター発表があり,過去最大のIAVCEIであった.プログラム委員の一人として,大会の運営に関わったが,準備はかなり大変であった.講演内容としては,G-EVERで取り組んでいる火山データベースや火山ハザード評価,火砕流に関する関連セッションも多数あり,今後のG-EVERの活動を進める上で大変参考になった.また,規制庁の予算で進めている大規模火砕流の研究内容もあり,こちらの方面でも大いに参考になった.
3.Best Practices in Tephra Collection, Analysis, and Reporting: Toward Better Tephra Databases (8月19日,Hilton Portland)
8月19日には,テフラデータベースに関するワークショップに参加した.主催者は,Kristi Wallace氏(USGS, AVO), Steve Kuehn氏 (Concord大),Marcus Bursik氏(ニューヨーク州立大学バッファロー校),Andrei Kurbatov氏(Maine大)の4名であった.参加者は約40名であり,テフラ関連の火山学関係者に加えて,国際第四紀学会(INQUA)の関係者も多かった.
各自の自己紹介のあと,Marcus Bursik氏が今回のワークショップの趣旨説明を行った.テフラのサンプリング,解析,取りまとめ,データベースに関する各分野の知見を取りまとめ,より高度なデータベース作成のためのガイドラインを作成することが目的であった.
まず,David Lowe氏が,テフロクロノロジーの基本や,年代測定方法,Cryptotephraの分析方法,統計学的なテフラの処理方法の講演を行った.また,得られたデータベースのデータ交換について議論した.その後,スミソニアンのBen Andrews氏がなぜデータベースが重要か,その有用性についてスミソニアンVGPプログラムを事例に講演を行った.データの標準化や,今後はデータベース間の相互コネクションを検討する必要があることを述べた.次に,Kerstin Lehnert氏が,現在データベースで利用されている各種の技術情報について講演を行った.データの相互運用,再利用のためのDOI,メタデータ,データリポジトリの標準,XML等を紹介し,Earth Chemデータベースでの事例について紹介した.また,米国のNSF予算では研究で得られたデータはすべてインターネットで公開共有することが,予算獲得の条件になっていることを述べた.
午後は,Steve Kuehn氏が各地のテフラについて(Fig. 13),Britta Jensen氏がCryptotephraによる超広域の火山灰の対比について(Fig. 14),Siwan Davis氏が北南極のアイスコアとマリンテフラについて, Nelia Dunbar氏が南極のアイスコアの分析方法について,Sue Mahony氏がIODP/ODP/DSDPプロジェクトの海洋コアによるテフラデータベースについて講演を行った.
その後,今回のWSのアウトプットとして,テフラデータベースのガイドライン作成のための議論を行った.アウトプットとしては,Bulletin of Volcanologyに論文としてまとめる方向を検討している.内容についてはブレーンストーミング会議を行った.テフラの命名法,データベースの相互運用,地域毎のデータセットとの対比,使用ソフトの種類,データの質,テンプレートの作成,分析手法など様々な内容を議論した.私は,地点毎のポイントデータだけではなく,isopach mapなど空間分布データのデータベースが重要であり,そのGISデータの整備が必要であることを提案した.
最後に,Sebastien Biass氏が火山のテフラ堆積物から得られる各種の火山の物理情報について,Kristi Wallace氏が2014年のBest-Practice checklists for tephra collection analysis and reportingの内容について,Murcus Bursik氏がMono Lakeのテフラデータの解析について,Andrei Kurbatov氏がアイスコアの分析方法について,Steve Kuehn氏が各種の化学分析の手法について,Sue Mahony氏がUSGS AVOのテフラデータベースの長期運用について,Graham Leonard氏がニュージーランドのテフラデータベースの事例について講演を行った.
私は,最近の御嶽等のテフラ関係の研究や,G-EVERや大規模噴火データベースにおけるデータベース構築とって有効であると考え,このワークショップに参加した.テフラ関係者は,現在,数万〜数10万以上の各種の小規模〜大規模プロジェクトによる膨大なテフラデータ(コアデータ,分析値データ,分布図)を抱えており,その運用について,より将来的に相互運用可能な形でのデータ共有を考える時期に来ていることが実感できた.米国では,分析データはすべてオープンにし公開することが,研究費(NSF)獲得の条件となっている.地質調査総合センターでは,地質図類やGISデータ等のオープン化は基盤センターを中心に進んでいるが,個々の分析値は,各研究者の裁量に任されており,分析値を図などで論文化することで公開したことになっている.一方,彼らは,研究成果をより広く社会に還元すると共に,周囲の研究者とも共有することで,自らの研究を進めることを目指している.我々としては,分析値や柱状図などは生データを含め,GSJのオープンファイル等で広く公開し,共有していくことを検討すべき時期に来ているのかもしれない.G-EVERでは,今後アジア太平洋地域地震火山ハザード情報システムにおいて,既存の各種のテフラデータベースとの連携やテフラ分布図の整備を進めて行きたいと考えている.
活断層・火山研究部門
宝田晋治